12

 時は少し遡る。最後に残った小隊を送り出して、キレストはテントの中に戻った。手元には僅か4機の晋陽。今別働隊が来れば一巻の終わりである。

 そこで、予想される進行コースをセンサーで監視させた。敵の数にも依るが、守備に備えることさえできればわずかではあるが時間は稼げる。敵本部を制圧するまでそれが保てばよい。

 もっともその懸念も無駄だったようで、敵を確認することなく小隊長から突撃すると連絡が入った。

 拍子抜けしたが、勝てるに越したことはない。許可を出して一息ついた。ようやく晋陽を生かすことができたか。しかし、この醜態は負けたと言ってしまった方が良いくらいだ。自分が驕っていたことを認めて、更に精進せねばなるまい。

 まずは残心だ。念のために進行コースの監視は続けさせる。後は小隊長からの報告を待つ。それだけしかできないのであれはそれだけをすればよいのだ。

 しかし、待つだけとなればヘルメットが些か邪魔に感じてきた。報告があれば分かるのだからと、キレストはそれを外した。

 フィルター越しでない空気は新鮮で、頭がすっきりした。大きく息をつき、大分緊張していたのだと実感し、顔をしかめた。いつの間にか傾きかけた太陽の光が差し込んでいた。空気は美味いが、ずっと目を細めているわけにもいかない。仕方ないとヘルメットに手を伸ばした。

 その時、缶が転がる音がした。

 誰が捨てたのだと確認しようと思い、固まる。

 ここは戦場だ。そして今は交戦中だ。今缶が転がる理由は一つしか考えられない。

 気付いた瞬間にヘルメットに飛び付き、素早く被る。

 しかし、完全に装着するよりも早く、強烈な閃光と爆音がテントを満たした。

 一瞬の意識の空白。その後にキレストはヘルメットを装着できていたことに気づいた。

 しかしはっきり見えるはずのディスプレイはぼやけ、耳は音を認識していなかった。体も思うようには動かないが、それでも意識があるだけありがたい。見えなくても聞こえなくても敵が来たことは明白だ。

 何故ということはこの際忘れる。直ぐに自らの突撃銃を手に取る。同時にセンサーを起動。とにかく迎撃しなければならない。

 一つだけぼんやりと人型が認識できた。おそらくは天陽だろう。反射的に自分の銃があった場所に手を伸ばし、人型に向けて連射する。

 しかし当たらない。相手がフラフラして照準が合わないのだ。当たれ当たれと念じて撃てども掠りもせず、気付けば弾が切れていた。

 再装填をと意識を敵から外した瞬間、ディスプレイに敵の姿が大きく映し出された。この位置から可能な反撃は一つ。そう判断して突撃銃をそのまま叩き付ける。

 次の瞬間、キレストは自分の体が宙に浮いていることに気付いた。投げられたのだと理解できたのは、装甲越しに衝撃が背中に伝わってからであった。次いでディスプレイが赤く塗りつぶされた。

 一拍置いてペイント弾が撃ち込まれたのだと気付いた。それから更に一拍置いて、キレストは全てを理解した。

 諦めてヘルメットを外す。眼前には想像通りの風景が広がっていた。その時、ようやく回復した聴覚が演習の終了のサイレンと、もう一つの音を認識した。

「満足かい? 坊や」

 朧気な視力で捉えたエフナーは、自分の頭部に銃口を向けたまま笑っているように見えた。

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