114中隊本部。3割もの人員を失ったそこは荒れていた。主に隊長がである。

 ここまでやりこまれたのは初めてではなかったが、自分の失策が原因というのが何よりもショックだった。報告では後ろから突然攻撃を受けた、と聞いている。つまり、一度敵を追い越して間抜けにも背中を見せたところで攻撃を受けたということだ。

 重力センサーを使用していれば、少なくとも注意深く探っていれば気付くこともできたはずだが、そのときの指示は全速力で前進するのみであった。しかもセンサーは敷地の半分を越えるまで使用しないよう伝えていたのだから、兵達に非はない。

 センサーを使わないことまで読んだ上でただ隠れていたということであれば、その遠因は自らの認識にある。全て自分のせいであるからこそ、ただただ悔しかった。

 当たり散らしても意味がないのは分かった上で椅子や机をただ殴っていた。当たり散らしているだけで全てが終わるなら安い話だが、残念なことにまだ敵はいる。その事実に気付くまでに実に5分。本物の戦場であれば致命的とも言えるロスだ。彼が未だにそこに立っていられるのはまだ外に3分の2の晋陽が残っているからにすぎない。敵がまだ晋陽を怖がっていることは事実なのだ。

 とりあえずはそれが彼の心に平静を取り戻させた。落ち着いたところで、どうするか、だ。およそ3割の人員を失った以上、得策は撤退と敗北である。しかし、やりたいことは、やるべきことは一つ。

 逆襲である。自分がしてしまった過ちは後に悔いるして、まずは敵を撃滅せねばならない。損害の大きさを考えれば撤退すべきだ。教本にもそう書いてあった。

 しかしその程度の話はこの際無視である。ただやられっぱなしでは名目上の主旨にも反するし、何よりプライドが傷ついたままなのだ。許せるわけがない。もう油断はしない。敵は最強の名を冠されることすらある程の部隊である。

 すっと頭の中がすっきりしたのと同時に、自分が暴れた跡が目に入った。なるほど、部下達が制止しないのはなぜかと思ったが、こういうことか。

 すまなかったと一言詫びを入れて、テントの外に出た。そこには指示を待つ晋陽を纏った部下達がいた。一目で相当に動揺していることは見て取れた。どうなっているのか、これからどうすればよいのか、何故隊長があそこまで暴れていたのか。全てが今は分からないままなのだから、当然のことである。

「諸君、聞きたいこともあるだろうが、初手は敵の方が上手だったと、今はそれだけ認識しておいてほしい」

 それを理解した上で、あえてキレストは無視した。今この状況で必要なのは反省ではなく次の策である。彼はそう信じていた。

 あんな奇襲を仕掛ける位なのだから、おそらく敵の罠は全て張り終わっているのだろう。しかし、晋陽を撃破するために少なくない人員を割いたはずだ。その人員の再配置には時間がかかる、はずだ。仮定の話な上に確率も高いとはいえないが、このまま時間をかけてミーティングするよりも建設的だとキレストは信じていた。

 第一波は敵に見破られて失敗した。だが敵も戻るまでには時間を要するはずだ、同規模の第ニ波で速やかに再侵攻をかける。

 今度は本部より100mの段階でセンサーを使用開始、その後センサーの有効範囲の半分に達した時点で再度センサーで索敵を行い、慎重に進む。

 再び同じ方法で攻め込むのには理由がある。先ほどの奇襲は完全にこちらを見くびっていたからこそ行われたに違いない。ということは、同じ方法で攻めれば『あいつら懲りねーな、バカか?』と更にこちらの評価を下げるだろう。対応は変わらなくても、少なくとも心に緩みが出るはずだ。その隙をつく。それがキレストの考えたプランである。

 これで勝てるはずだ。キレストはそう断定した。だからだろうか、散ってゆく晋陽の姿は先ほどより誇らしげに見えた。

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