11時を告げる鐘が鳴り響いた。それを合図にWD達が動き出す。音もなく、静かに。

 満天星国でのWD同士の演習は、しばしば無音に感じられることがある。機械式のパワードスーツと違い、WDとはあくまで装着者の機能を底上げするだけのいわば服である。装甲と武器がこすれる音以外には足音しか音源がない。故に接敵するまではほぼ環境音のみがその場を支配するのであった。

 しかしいくら静かとはいえ限度がある。大勢で動けば敵に見つかる可能性も高くなる。防衛側は元より動かないのだから問題ないが、攻める側は大問題だ。

 そこで114中隊は部隊を3つに分け、少ない数で攻め込むというプランを立てた。残りは本部の護衛兼予備隊である。それで十分に勝てると見越してのことであった。

 そうなれば当然音以外の問題が出てくる。人数が少なくなれば一人がカバーするべき範囲は広くなる。それでも晋陽の力があれば問題ないと判断した。新しいセンサーはそれを可能にすると信じていたからである。

 以上の隊長の考えから、114中隊は2人1班として編成。演習場の横幅とほぼ同じ範囲をセンサーでカバーしながら進行するローラー作戦を開始した。力に任せた乱暴な作戦ではあったが、それだけに確実な方法であった。相手がまともであれば、の話ではあるが。

 頭の中で今後の計画を立てながら中隊長は椅子に腰掛けた。午後から会食をしてもいいかもしれない。重力センサーは道程の半分を超えるまで使用するな。速度を活かして強襲する。事前に隊員達にはそう指示してある。間もなく制圧したという報告があがることであろう。晋陽の速度に驚いて目を丸くするエフナーの顔が思い浮かんで、思わず口の端がつり上がる。我々を舐めたことを後悔させてやる。

 ふいに、テントの中が静まり返った。微かにではあるが、一発の銃声が鳴り響いた。

「接敵したのか!」

 中隊長はできる限り驚きを殺して部下に問いかけた。戦端はこの施設の中頃になるだろうと想定していたが、まだ自らの部隊はそこまで進んでいないはず。銃声が聞こえるということはかなり近い位置だろう。かなり手前まで相手が進撃していたのかもしれない。だとすれば晋陽よりも早く動いたということだが、そんなことはあり得ないはず。いずれにしてもこちらの攻撃かどうかを確認しなくては。

「各班に位置と発砲、攻撃の有無を確認!」

「既にやっています!」

 慌ただしく動き始める部下達。よしよし、よく訓練されているではないか。不測の事態にも対応できている。

 ほどなく各班より位置情報と接敵していないという報告が入った。であるならば、敵側が焦って誤射したのであろう。その位置も判明している。とりあえず一人か一部隊か、何にせよ撃破確定だ。

「発砲があった現場に一番近い班は?」

「18班です」

「向かわせろ」

 簡潔に指示し、中隊長は再び腰掛けた。ベテランというか、なんだ大したことないではないか。この分ならば、早く決着が付きそうだな。すぐにでも18班が敵を制圧したと報告が……。

「じ、18班……」

 ほら来た。

「制圧されましたっ」

「……な、何……だと!」

「続いて14班、1班、5、8、17……す、全て制圧されています!」

「な、何かの、ま、間違いでは……」

「間違いありません!」

 信じられないが、悲鳴にも似た部下の叫びが真実であることを物語っていた。

「いったい、なにが起こった……」

 自らの過ちがその原因であることに気づいたのは、最後の班から制圧されたと連絡が入ったときだった。

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