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 演習前日。172部隊は会議室に集められていた。各々の手には印刷された114中隊のデータが配布されていた。壇上でエフナーがホワイトボードを叩く。

「はい、おまえらよーく聞け。これから明日の傾向と対策を練ります」

 エフナーが手で指し示したそのボードには演習場の簡単な見取り図と2色のマグネットがすでに配置されていた。

「えー、俺の予想では、あいつらは晋陽の力を死ぬほど過信しているので最初っから全力では来ません」

 そういって赤いマグネットを7割ほど取り外す。

「過去の似たような状況の演習から見ると、一つの部隊を多めにして連絡を密にとってじわじわ行くみたいですが、今回は晋陽があるので二人くらいずつの班でセンサーを活かして各々の策敵範囲を広めにとると考えられます。なので最初は3割くらいかな」

 手の中でその残り、7割をじゃらじゃらと弄ぶと、おもむろに『ほんぶ』と書かれたところに叩きつける。

「その分本部は熱い。マジ熱い。その残りが詰めてるからな。なので、まずは調子に乗ってる先発をぶっ潰してそいつらを引っ張り出します」

「はいせんせー」

「はい、そこの第2小隊長くん」

「どうやって引っ張り出すんですかー」

「うーん、いい質問ですがこれから説明するところだから黙っとけ」

 うーい、と気の抜けた返事。たまに発言しないとだれてしまうのでこんな調子でもツッコミは許される。

「で、調子に乗りまくっててもとにかく奴らは晋陽使ってます。多分強いので、奇襲でぶっ潰します」

 次は青いマグネットをほぼ全て取る。そして中央より敵部隊寄りにパチパチとくっつけていく。若干部屋の中がざわつく。その位置がことごとく前に出ている部隊の後ろ、敵本部寄りなのであった。そのざわつきをあえて無視してエフナーは説明を続けた。

「多分、新型のセンサーってすごいと思うので、普通の奇襲では無理です。なので、後ろから行く。どんなセンサーでも後ろはよく見えないと思うし、まぁ後ろからなら不意をつけるべ」

「はいせんせー」

「はい、第1小隊長くん」

「後ろにはどうやっていくんですかー」

「隠れます。新作レーダーは名前しか分からないけど、鉄球のスキャンほど万能では無いはずなので瓦礫に埋もれれば多分大丈夫だろう。マンホールの下ならほぼ問題ないはずだ。念のためスペックは本番直前に確認するけどな」

 そもそも奴等の頭の中に演習場全てが敵という考えはない。演習であればこそ、陣地を考えて半分は自分の物、という考えが染み着いている。過去のデータではその傾向が顕著だったし、何よりこっちを舐めてかかっているのだ。まず間違いなく自分の陣地をお利口に守るはずだ。

 つまり、しばらくはセンサーを使わない。ということは別に言うまでもないので言わない。

「でだ、肝心の奇襲だが、相手の正確な位置が分からないことには難しい。注意も逸らさなければならないので、はい、工兵君の出番です」

「俺達っすか?」

「おおよ。今回出番多いからしっかり覚えろよ。大体来る位置は20くらいで演習場の幅を等分したくらいかな。それですぱーっと早く進むから大体このマグネット通りの位置のはずだ。で、適当な所で前から発砲する」

「どうやってですか?」

「そこは君らが考えろ。で、それで注意を向ければ奴等はまず間違いなく連絡し合う。その通信を傍受し、位置を確定。しかる後に制圧する」

「その後は?」

「逃げる。速力に違いがありすぎるからな。さっさと逃げて次の策だ」

 うぇーいという返事で全員が了承したことを確認する。うんうんと頷き、エフナーはマグネット3割のマグネットを『駆除済み』と書かれた部分に貼りつけた。

「さて、次の策だが……」


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